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シネマ

運命を、信じてみてもいいですか? 『ブロークン・イングリッシュ』

 

ストーリーは……

ノラ・ワイルダー、30代、独身。NYのホテルで働く、仕事中心の日々。
親友は自分が紹介した相手と結婚し、母親はことあるごとに自分の心配をする。男性と付き合おうとすれば失敗する……。そのままの自分を愛してくれる人に出会いたい、でももう誰からも愛されないかもしれない。そんな揺れ動く気持ちさえ、日常にかき消されてしまう。気分転換に友達のホームパーティに出掛けたものの、やっぱり気が乗らず、帰ろうとしたその時、フランス人のジュリアンと遭遇する。情熱的で積極的な彼に心奪われながらも、失敗して傷つくことを恐れ、距離を置こうとするノラ。そしてやっと自分の気持ちに始めたとき、ジュリアンから「パリへ帰る」と宣言されてしまう。一緒に来ないかと誘われるが、仕事と日常を捨てる決断なんて到底できず、そしてジュリアンは去り、ノラは心にぽっかり穴が開いてしまった。このまま日常に戻るのか、それとも……。

 

 

 

このセリフがよいのです。

「こんなに必死な自分がイヤ」

by主人公ノラ(30代独身女性)



 
『ブロークン・イングリッシュ』は、そのタイトルが示すように、コミュニケーションとディスコミュニケーションについての映画だ。

なにも俗にいう 「結婚適齢期(を過ぎた?)」の男女間に限った話ではなく、親とその周辺の「オトナ」たちや、既に結婚している友人夫婦、会社の同僚や上司にとどまらず、街でバッタリ出くわす顔見知りや、酒場で偶然隣り合わせた人までの、ありとあらゆる関係性を差し示す。

「私は「人間の話」が大好き。登場人物たちが、心の痛み、不安を感じ、他人の暮らしを見て、自分にないものをうらやましく思う、そういう当たり前の姿が好き」
と監督のゾエ・カサヴェテスが語るように、リアルな会話や表情で、ごくごく自然な感情を実に繊細にこの映画は描き出している。

「あなたの年では、もう“いいもの”は残ってないのよ」
とは、ジーナ・ローランズ演じる、主人公ノラの母親のセリフ。
娘は母のこの至極まっとうな言葉を受け流す余裕を見せながらも、試しにパソコンの“男性:25〜45歳”の条件を入力してみると、そこには「検索結果ゼロ」の表示が……。

一見恵まれた悠々自適な生活を送っているようでも、時には精神安定剤を飲まないとやり過ごせない程の不安を抱え、せっかく興味を持って近づいてきてくれた人にさえ、安易に心を許せないまま、日々の仕事に追いたてられて、気づけば年だけとっている……。
悪夢のようだが、それが現実。

以前、働く女子が求めるものは、もはや旦那じゃなくて嫁なのでは? と友人と話したことがある。自分のためだけに突っ走り続ける“こんなに必死な自分がイヤ”になり、おだやかな暮らしと、頑張る理由を与えてくれる、そんな存在が欲しくなるから。

「たまらなく孤独よ。愛する人を見つけたい」
と、ノラが思わず本音を吐露するシーンがあるのだが、その切なさといったら、魚喃キリコの漫画『痛々しいラヴ』や『南瓜とマヨネーズ』で主人公がつぶやくセリフに匹敵するくらい身につまされる。

とはいえ、いざという時が訪れたって、仕事や今の生活を捨てる勇気もなく、2日前に出会ったばかりの相手と、異国の地で、何の保証もない人生を踏み出すことなんてできやしない。
自分のなかで勝手に作った足かせが邪魔をする。
なのに些細な事で上司に啖呵を切って、ノラは仕事をあっさり辞めてしまうのだから、人生とはホントにままならない。

やっと重い腰を上げ、彼に会いにパリに向かう決心をするノラだが、いざ着いてみたら、
肝心の彼の連絡先を書いたメモがどこにも見当たらない。パリの街は、あてどなく人探しをするには広すぎて、新しい出会いさえ、持ち前の皮肉屋気質でふいにする。

見知らぬ街のバーカウンターで、隣に座った相手に
「愛する人を求めてもいい。独りがイヤだから、人は相手を探す。でも、魔法はあまり起きない。まず、自分自身の中に、愛と幸せを見つけることだ」
と諭され、涙するノラ。

結局のところ運命の相手を求めることは自分探しと同じで、どこかで手を打たない限り、エッシャーの絵みたいに果てしなく続いてゆく。
何かを選ぶということは、残された他の可能性を捨てるということ。
でもそうやって、人は人生のコマを進めるしかすべがない。

考えてみれば、母親役のジーナ・ローランズだって、かつて夫(ゾエにとっては父)のジョン・カサヴェテスの映画『ミニー&モスコウィッツ』で、駐車場で働く身分違いの男に惚れられ、なんだかんだ言い争いつつも、出会って4日で結婚を決めたりしているのだから、頭でっかちにならず、時には直観を信じてみるのもありかもしれない。

自分のためだけに必死になることに疲れてしまった女子にとっては、「これって運命かも」と思い込ませてくれる、すこし強引なくらいの相手がきっと必要なのだから。

 

『ブロークン・イングリッシュ』恵比寿ガーデンシネマ・銀座テアトルシネマほかにて12月13日(土)より全国ロードショー!
配給/ファントムフィルム
上映時間/98分

『ブロークン・イングリッシュ』

監督・脚本/ゾエ・カサヴェテス
音楽/クスクラッチ・マッシヴ
衣装/ステイシー・バタット
ノラ/パーカー・ポージー
ヴィヴィアン/ジーナ・ローランズ
ジュリアン/メルヴィル・プポー

アーヴィング・マン/ピーター・ボグダノヴィッチ



 

筆者プロフィール

渡邊 玲子(わたなべ・れいこ)

元映画配給会社勤務(主に宣伝と字幕制作を担当)

白金台の一軒家での7人暮らしを経て、現在は郊外の実家に居候中。
最近はもっぱら早寝早起き。アートと本と音楽にまみれた日々を過ごす。趣味は書道とカメラ。
思いがけないところで人脈がつながることが多く、広い世の中の狭さ加減に改めて驚く今日この頃。

(2008 年 12 月 11 日)

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